| 7月28日
チンクの下半身が随分痩せている。
揉んでみると肉の充実感がなく、ふにゃふにゃと溶けた氷枕みたいだ。腰から下の毛も抜けている。体重184g。一時よりは減ってるけど。
7月29日
チンクは呼吸が荒い。
丸くなって寝ている、背中がパクパクパクパク波打っている。餌も減ってないみたい。フンチ、おしっこはほぼ変わりなくしてる模様。つまみ出して様子を見ようとしたが、さしのべた手をobasan(注・飼い主のこと)だと認識できない。やみくもに敵だと思うらしく、激しくかみつこうとする。目もあまり開いていない。
7月30日
砂糖の付いたドーナッツをやると、喜んでモクモクと食べた。茹でた枝豆も、喜んだ。生の茄子は水っぽいからか、これも喜んだ。
水入れまで行くのがしんどいかもしれないと思い、バナナ水入れを外して、チンクの顔に近づけると、バシンって弾かれたように飛びついてきて、ちゃぷちゃぷ長い時間かかって舐めた。
牛乳もやってみたが、興味なし。他のハムたちにもお裾分けしたけど、誰一人として飲まない。今まで一度も飲んだことがないから、だめなのか。
ペレットは、律儀にもケージの角に運搬し積み重ねられるのみ。昨日入れた野菜(にんじん、いんげん)もほんのひとかじりしただけで、同じ場所に積まれて、乾ききっている。
フンチは、平時よりは小さいけれどなかなかのサイズ。下痢なし。不正出血なし。おしっこ箱も、まだ意識の中にあるようでのそのそと入り込んでは用を足している。
下半身の激やせぶりにはただただ困惑するのみ。毛も抜けて、鳥肉みたいになってる。
昨夜からケージをベッドの枕元に置いて様子を見ている。
チンクの呼吸の荒さがとにかく目についてしょうがない。目はつむっているが、眠ってはいないだろう。しょっちゅう体を伸ばしたり、曲げたり、グーとかスーとか小さな声をたてる。呼吸する度に、パタパタと膜を震わすような音が聞こえてくる。
こちらが食べ物を近づけても、過剰に反応する。今まではこんなにビビリ屋じゃなかったのに。攻撃されると思うのか、とにかくかじろうとする。自分の命の火の弱まりを知って、精一杯強がって見せている。
25時くらいに、ハタと思い出したかのように目が開いた。
それと同時に動きも急に活発に。
ペレットをもそもそかじり、パンに喰いつく。小さなフンチをして、口にくわえてポイと投げ飛ばす。回し車に這い上り、2回転、3回転させる。 ケージの蓋を取り外すと、外に出たいと壁に手を掛けてよじのぼる。おしりに手を添えて、外に出してやる。
ごつんごつんと音が聞こえそうな、こわばった四肢の動き方だけど、それでも大変興味深そうにベッドの上を探索。おやつ畑とレーズンをやると、いつもどおり慇懃に頬袋へしまう。
これらは、死ぬ直前によくあるアレ「急に元気いっぱいになる」であることが判って、ただただ涙がぽろぽろ出た。
どこに、こんなに体を動かすエネルギーが燃えているのだろう。呆れるほど、体はひんやりしている。特に毛の薄い下腹側は、牛肉か蛇みたいに冷たいや。半分ユーレイなんじゃないか、と思う。人間だったらこんな低体温で動き回れないよ。
ベッドの上を散歩させている間写真を撮った。
大きなスイカの種のような黒い目を見開いているけれど、表情はピントはずれ。認識へつながる回路が、もう断たれているみたい。obasanの像を結んでいるかもしれないけど、それがいつものお世話の係のobasanであるとは判っていないようだ。
フンチや餌の減り具合をきちんと把握するため、ケージ内を全て掃除。ペレットは3つくらい餌箱に残しておいた。
ケージに戻ったチンクは、ペレットをひとつずつ餌箱から運び出してはバナナ水入れの下にチョコンと固めて置いた。同じ場所に、おやつ畑とレーズンを頬袋から出して積み重ねた。
この律儀さ。
本能とか習性とか、動物学者は説明するだろう。しかし、死が目前に迫っているのに、いままでと寸分違わぬ所作を見せられると、そんな科学的な用語に、おさまりの悪さを感じてしまう。 ハムスターという小動物のもつ、生真面目さ、一途さ、小市民的な律儀さ。私自身の性格には恐らく毛ほども含まれていない、美徳のひとつ。尊いことだと思う。奇をてらうことなく、ただただ「いつものことですから」「こうすると落ち着くんですワ」と、誰に聞かせるでもなくつぶやきながらやっている。力も弱くて脳みそもほんのちょっぴり、そんな生き物だけど、せっせといつもの職務に励む姿からは、「生きるための意志」が強く伝わってくる。
ケージに戻ってからも、あれやこれや5分くらい活発に動き回っていたが、またすぐに横になった。
回し車の上に体を伸ばして、ケージの壁との細い隙間に首をだらりと垂らした。しかし、またすぐ床の上に寝そべった。
呼吸は荒く、早い。ふと、静かになることもある。
27時前、消灯。
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